会の趣意
日本には、日本人が真心とともに大切に継承してきた「節句(節供)」という伝統行事があります。 四季折々の自然の営みの中で、季節の節目に、神様にお供え物をし、しきたりに沿った室礼(しつ らい)をして、親戚・縁者が集まって、無病息災、豊作、子孫繁栄などを願う行事です。起源は中 国から奈良時代に伝わったといわれますが、これらが江戸時代になって幕府が公式に五節句を式日 に定めたこと、加えて民衆の間で農作業の節目節目に行われていた古来の風習とも相まったことか ら、現在のような、日本独自の行事になりました。
四季を彩る日本の節句には、一月七日の人日の節句、三月三日の上巳の節句、五月五日の端午の 節句、七月七日の七夕の節句、九月九日の重陽の節句があり、これらは五節句として人々の生活の 中に深く根付いています。
まず、お正月を締めくくる「人日の節句」では、七草粥で無病息災を祈ります。続く三月の「上 巳の節句」には女児のために雛人形を飾り、また五月の「端午の節句」には男児のために鎧兜や武者人形を飾り、鯉のぼりを戸外に立てるなどして、共にわが子の健やかな成長を祈ります。そして七月の「七夕の節句」には願いを記した短冊などを笹竹に吊るして立て、夜空の星に祈りを捧げます。
さらに、「敬老の日」の由来となった九月の「重陽の節句」では、菊の露で体を拭って不老長 寿を願います。なお古くから「後(のち)の雛」と称し、この日に雛人形を飾る風習もあります。 このように、私たち日本人は、毎年おとずれる四季折々の節句を通じて、家族や親戚の人たちと 集い、人と人との絆と愛情を深める機会に恵まれてきたのです。また、節句という節目があるおか げで、立ち留まって自然と向き合う豊かなひとときを持つことも出来、そうした中から茶道・華道・ 日本画・短歌・俳句などの多くの日本文化も育ちました。日本を表す言葉のひとつに「和」があり ます。それは、自然との向き合い方が育んだ日本人のアイデンティティに由来するものともいえる でしょう。
しかし、昨今は、生活様式の変化によって、節句の風習やそのための飾りも大きく変化していま す。また、核家族化によって伝承が途絶え、その上多種の外来文化が入るなどして、四季の移ろいを楽しむ日本の節句文化の風習そのものが薄れつつあります。国際社会におけるグローバル化の中で、今こそ日本人としてのアイデンティティが問われているにも拘わらず、日本の伝統文化を知ら ない日本人が増えていることが危惧されます。
そのような現状において、日本の伝統文化に携わる者の使命として、文化薫る美しい日本を子や 孫たちの未来へ残していくことこそ我々の責務であるという強い決意のもと、このたび「日本の節 句文化を継承する会」を設立いたしました。つきましては、五節句文化を継承する各保存会、協会 等の皆様、また五節句文化に関連するイベントを開催される方々に広く呼びかけて連携を図り、節 句文化の継承のために邁進する所存です。皆様方のご賛同を心からお願い申し上げます。